腹水濾過濃縮再静注法
(CART)について
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当クリニックで始めた経緯
当クリニックでは、訪問診療と外来機能を備えているため、腹水の貯留したがん患者の訪問診療導入目的に紹介いただいたり、腹水貯留にて直接外来に受診する患者さんがいらっしゃいます。腹水や胸水貯留の患者さんはそれによって、ADLを損なわれていたり、呼吸苦や食欲低下などの苦痛を強いられております。
今までは、そのような患者さんに緩和医療として苦痛を除去という観点で、なにもしてさしあげれませんでした。そこで、この地域ですこしでもそういった、”腹水難民”が困らないように、CART治療を立ち上げさせていただきました。 -
CART(Cell-free and concentrated Ascites Reinfusion Therapy)とは
各種のがん患者さんで、腹水がたまることによって、おなかの張りがあり、食欲の低下や嘔気・便秘に加え、呼吸苦が出現する事があります。腹水は時には数kgから20kg程度も溜まってしまう事があり、移動も間々ならない状態であったり、腹水による臓器の圧迫でうまく機能しない状態(臓器不全)になったりすることがあります。これに対し、従来から腹水穿刺といい、おなかに針を刺し、腹水を抜く方法はありました。
単純に腹水を抜くだけでは、抜いている間に血管から腹腔内に血液中の水分が漏れ出てしまい、血管内の脱水につながります。そのため、急に血圧が低下しショック状態に陥る可能性があり、その予防には、高額な血液製剤アルブミンや新鮮凍結血漿(FFP)などの投与を行い、急激な血管内脱水による血圧低下を予防しなければいけない事もあり、充分に腹水を抜くことができませんでした。特に根拠はないのですが、この様な現状から3Lの腹水を抜くことが限界といわれています。しかし、10L近く腹水が溜まっている患者さんから、3Lだけを抜く事で果たして楽になるのでしょうか。こういった患者さんの身になった治療がなされていないことが、問題であると感じます。
また、腹水中に大量に含まれるアルブミンやγ-グロブリンといった有益な物質も排液とともに捨てていました。この有益な物質を捨ててしまうことから、患者さんの血液中のアルブミン濃度の低下を招くことで更に短期間で腹水がたまってしまうこととなり、腹水を抜くたびに患者さんの全身状態の悪化をきたしてしまいました。また、γ-グロブリンは免疫にかかわる物質なので、捨てることによって抵抗力が落ちるため、”腹水は抜くと弱る“といわれていました。
この弱点を克服するために開発されたのが、腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and concentrated Ascites Reinfusion Therapy : CART)です。
腹水を抜く部分は変わりませんが、抜いた腹水から余分な水分と細菌や癌細胞を取り除き、有益なアルブミン・γ-グロブリンなどが濃縮された腹水を点滴で体に戻す治療法です。
詳しくはこちらへこの方法を行うことにより従来3L程度しか抜けなかった腹水を安全に大量に抜くことが出来、さらに腹水が溜まりにくい体にすることが可能になりました。
ただ、この方法にも欠点があり、癌性腹水の治療の場合は使用する機器の構造上、3L程度の腹水しか濃縮処理できず不向きということ、また濃縮腹水を戻す際に発熱などの合併症があることでした。
そこで、この方法を改良したのが、要町病院要第2クリニック腹水治療センター長でいらっしゃる松﨑圭祐先生が考案したKM-CARTです。当クリニックでは、このKM-CARTを採用し、腹水で苦しんでいる患者さんのお助けができればと考えております。また、治療中は患者さんの状態に応じ、近隣の連携している病院に入院することもできます。
さらに、このKM-CARTで回収した癌細胞を利用し、オーダーメイド医療である自家がんワクチンの作成により、積極的な癌治療の補助療法の一つとして提供していきたいと考えております。
現在のところ症例数(2020年6月現在)31症例外来で施行しております。